「ベーシック・インカム・ソウル宣言」
                            (ソウルでのベーシック・インカム国際学術大会にて)

21世紀となった今でも戦争や虐殺は世界の至る所で絶えずにいるが、血にまみれた直接的な暴力だ
けが暴力ではない。今は無論、過去数十年間ネオリベラリズムの狂風が全世界を荒らし、このため民衆に
対する搾取と収奪はさらに強化され精錬されてきた。それは民衆の生存を脅かす更なる形の暴力となって
いる。このような暴力に対して民衆は自らの生存を守るため懸命に戦ってきたが、それでもまだ、力に余
っている。

民衆の危機は深まるばかりなのに、資本と権力は民衆にどんどん多くを譲れと要求している。民衆
は抵抗を続けているが、絶望のトンネルはその終わりを未だ見せずにいる。誰一人して希望を捨てまいと
踏ん張ってはいるが、その希望を現実化する手段は相変わらず霧の中にあるように思える。貧困と失業に
取り憑かれ、劣悪な賃金労働に酷使される多くの民衆の頭の中は不安、悲観、冷笑に満ちている。

我々が直面した危機を解決する代案が切に必要とされている。危機がその根において深く、その発
現において広いだけに、我々に必要とされる代案とはさらに根本的で、単純かつ強力なものでなければな
らない。なおその代案は空虚な理想ではなく現実に基づいた具体的な要求、民衆の危機を解決できる実質
的な要求でなければならない。危機の解決のための代案が必要だと言っている人は多い。だが、具体的な
代案を提示し、それを媒介として力を集めようとする努力の前で躊躇う人もまた多い。これもまた現在の
危機が終わらない要因の一つとなっている。

しかしここにそのような躊躇いを捨て、代案に向かい迷わず踏み出す人たちがいる。我々と我々の
時代を囲んだ古い鎖を砕いて人類の勝ち取るべき世界史的課題に挑戦する人たちがいる。19世紀の奴隷
制の廃止、20世紀の普通選挙権の実現に続く21世紀の世界史的課題としてベーシック・インカムを提案
する人たちがいる。ベーシック・インカムを、世界金融危機で充分にその馬脚を表したネオリベラリズム
の時代を徹底に終息するだけではなく、現在の資本主義と現存した社会主義をすべて乗り越えた代案社会
に進むための踏み石として認識する人たちがいる。

ベーシック・インカム、すなわち基本所得は、いかなる審査や労働の要求も無く、すべての社会構
成員に個別的に支給する条件無き所得である。ベーシック・インカムは既存の選別的で残余的な福祉のパ
ラダイムを越え、普遍的福祉のパラダイムを完成する触媒劑であり、完全雇用という仮想と資本主義的賃
金労働の全一化から脱出し労働社会を再構成する起爆剤である。ベーシック・インカムは単に現金所得で
他のすべてを切り替える案でも、分配の改善で他のすべての可能性を遮断する案でもない。ベーシック・
インカムの普遍的性格はそれに既存の所得とは違う新しい力を与え、新しい可能性の領域を作り出す。

ベーシック・インカムの必要性と正当性に共感する我々はその可能性と現実性に関しても充分に考
慮している。我々はそのために絶え間なく研究、行動し、地域の共同体から国家単位や地球的次元に至る
までベーシック・インカムの実現を目指す様々なネットワークを構成し、具体的な制度化の努力まで注い
できた。その大切な結果の一つが2004年国家単位では世界で初めてブラジルでシティズン・ベーシック
・インカム法が制定されたことである。ベーシック・インカムが世界各国で制度化されるまでは依然数え
切れない課題と挑戦が待ち構えているが、ひどく低い所得や所得無しで辛うじて日々生き延びている夥し
い民衆が存在する現実はベーシック・インカムを社会的議題として強力に打ち上げている。

幸いなことに、このような地球的次元の流れに合わせ、韓国でもようやくベーシック・インカムが
社会的な議題として浮かび上がっている。ソウルで開かれるこの度のベーシック・インカム国際学術大会
はベーシック・インカムの議論の進展のための大きな分岐点となる。この大会の成功のため、現代的なベ
ーシック・インカムの議論を導いてきたベーシック・インカム地球ネットワーク国際委員会議長フィリッ
プ・ファン・パレースや、ブラジルのシティズン・ベーシック・インカム法制定の主役でベーシック・イ
ンカム地球ネットワーク名誉共同議長のエドゥアルド・スプリシーを含め国外の研究者や活動家たちが韓
国を訪問し、韓国のベーシック・インカム・ネットワーク及びベーシック・インカムを積極的に支持する、
あるいはその意図に共感する数多い人々がこの大会のこの大会の成功に貢献した。

宣言に参加した人は様々で、その分、ベーシック・インカムの支持者たちもまた様々な意見を持っ
ている。ベーシック・インカム自体を目標にする人も、一つの手段として活用しようとする人もいる。ベ
ーシック・インカムの可否だけではなく、どのようなベーシック・インカムが望ましいのかについても多
くの争点がある。ベーシック・インカムが時代の巨大な転換を要求するだけに、これに関わる難しい問題
たちも多く立ちはだかっている。しかし確実なのは、ベーシック・インカムそのものが現代社会の問題を
全部解決する万能の神薬にはなれなくとも、最低限の必要条件にはなってくれるということだ。

この時代は今とは違う世界が可能だという宣言に止まらず、一体どんな世界が必要なのか、そして
いかにその世界は実現できるのかについて答えることを要している。我々宣言者たちに確信を持って言え
るのは、ベーシック・インカムはその答えの主要な構成物ということだ。ベーシック・インカムは代案社
会に向かう可能性の中心にある。無論、そのような可能性を現実性に繋ぐためには多くの努力が重ねられ
なければならない。我々宣言者たちはこの大会をきっかけに韓国でもベーシック・インカムの議論がさら
に活性することを期待し、その実現のためにも努めつづけることをここに宣言する。

                                                  2010年1月27日
                                ベーシック・インカム・ソウル宣言者一同